「隻眼の少女」 麻耶雄嵩
第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)・第11回本格ミステリ大賞 受賞
山深き寒村で、大学生の種田静馬は、少女の首切り事件に巻き込まれる。犯人と疑われた静馬を見事な推理で救ったのは、隻眼の少女探偵・御陵みかげ。静馬はみかげとともに連続殺人事件を解決するが、18年後に再び惨劇が…。
amazonより引用
物語の舞台は、信州の寒村・栖刈村。
龍退治の伝承からスガル様と呼ばれる生き神様を信仰し、古い因習に囚われた一族が治める村。種田静馬は、家族を失う事件後、死に場所を求めこの村を訪れる。初雪が降ったときが命が尽きる時と決めていた。雪が降るまで、退治された龍が石になったと言われる沢に突き出た「龍ノ首」と呼ばれる岩の上で景色を眺め過ごしていた。
そこで偶然知り合ったのが、同じ旅館に滞在しているという少女「御陵みかげ」であった。
水干に扇子という変わった出で立ちで左目が碧色の隻眼のボーイッシュな美人である。
少女の母親は「御陵みかげ」と呼ばれる探偵で、警察の捜査に協力し数多くの犯罪を解決してきたという。しかし、少女が1歳のときに命を落とし父親に育てられ、探偵「御陵みかげ」を継ぐべく修行のため父親とともに旅を続けているらしい。
そして、その龍ノ淵で事件が起こり、種田静馬が犯人ではないかと疑われることになる。
栖刈村で生き神様として祀られるスガル様を継ぐべく修行をづつけていた、現スガル様の娘・3人姉妹の長女春菜が、首を切断された姿で龍ノ淵で発見されたのだ。犯人と疑われ連行されようとしていた静馬を、みかげは見事な推理で犯人ではないことを証明し、琴折家から事件の解決を依頼される。これが二代目「御陵みかげ」探偵デビューの初事件となる。
この事件は、連続殺人事件に発展し捜査は難航。みかげは犯人の狡猾なトリックに惑わされ間違った推理に誘導され殺人を防ぐことに失敗しさらに父も失うことになる。最終的には、犯人の自殺という結末をむかえる。
事件を不本意な形でしか終結できなかったみかげは静馬の前から姿を消し、静馬は、別の死に場所を求めるのであった。
18年後、静馬は「御陵みかげ」の死をニュースで知り、引き寄せられるように琴折村を訪れる。そこで静馬は「御陵みかげ」そっくりの少女と出会う。
「御陵みかげ」と名乗る少女は、2代目「御陵みかげ」の子供で、3代目を継ぐべくみかげに英才教育を施され2代目の死後3代目として「御陵みかげ」を継ぐことになったという。みかげは、2代目から様々な事件のことを聞かされ育ったが、その中でも探偵デビューとなった琴折村連続殺人事件のことは一番の気がかりで何度も何度も事件の詳細を話し聞かされたという。静馬のこともその中で語られていて知っていたようだ。
この偶然のめぐり合わせが琴折村を再び惨劇の舞台とすることにる。スガル様を継ぐべく修行中の少女が首を切断され殺されると言う18年前の事件を再現するような事件が起こる。そして再び「御陵みかげ」がこの事件の解決を請け負うこととなる。
18年前の事件は、犯人の自殺で解決したのではないのか?2代目「御陵みかげ」の推理は間違っていたのか?親子2代に渡る連続殺人事件を名探偵「御陵みかげ」が事件の真相を解き明かす・・・
母が真相を暴けなかった事件を娘がその真相を見事に暴く!って感じの親子2代名探偵の18年越しで事件の本質にせまり解決する本格探偵小説。のように思うのですが、そこは麻耶雄嵩。そうは問屋がおろさない。
最後は、反則スレスレ?と言うより反則技?で盛大にちゃぶ台返し。
もはや推理小説よ言うより、サイコパスによる犯罪小説、もしくはサスペンス・ホラー小説。
第一部の結末が、犯人の自殺。
なんかしっくり行かない終わり方で、みかげの推理もオコジョを使ったトリックやコンタクトレンズのくだりなどご都合主義的むりやり感があり、どうもモヤモヤしたまま終わってしまいます。実際このモヤモヤ感が伏線であり第二部の18年後の事件につながっていくわけなのです。
要は、解決していないわけなのだが、ではなぜ名探偵であるところの「御陵みかげ」がそんな推理を披露し事件解決としなけらばならなかったのか?
推理小説として読むのであれば、そのあたりが犯人当てのポイントになるところではあるのですが・・・
もしかしたら、犯人を指摘できる読者はまれにいるかもしれませんが、その動機については犯人の語りを聞かない限りは指摘のしようがないように思うのです。特に18年後の事件については、私にはサイコパスの殺人鬼としか思えないようなものです。いずれの場合もそのためにここまで人を殺す必要があるのか?と・・・
「日本推理作家協会賞」「本格ミステリ大賞」を受賞されているということは、論理的に破綻しているわけではなく、犯人当て推理小説として成立する要素は揃っているということなのでしょう。なので散りばめられた情報や伏線を的確に分析して精査すれば犯人を指摘できるはずなのですよね。
例えば第二部の出だしの設定。事件解決後、静馬は自殺に失敗し18年間記憶喪失で所在不明であった・・・なにそれって感じの設定なのですが、第二部の物語のためには必然であるということ。
そう考えると、最後の反則技のようなどんでん返し有りきなので、そのため論理的に破綻しないような設定と伏線の土台はしっかり固められており、上記のような不自然な設定の裏読みをしていけば自ずと見えてくるはずと作者は言いたいように思えてしまいました。
でもやっぱり本格推理小説ということには私的にはちょっと納得行かないものを感じてしまうのです。
いずれにしても、私的には楽しめた作品で、まさに麻耶雄嵩だからこそ成立する麻耶雄嵩を代表する作品といって良いのではないでしょうか。
あと、三代目「御陵みかげ」が無事に名探偵に育った物語が読んでみたい。