「この世界の片隅に」に涙する。

年末年始休暇は「逃げ恥」に始まり「逃げ恥」で終わったと以前に書いたように、「逃げるが恥だが役に立つ」だけでなく「クリミナル・マインド12」や「名探偵コナン」の劇場版や新春スペシャルドラマなど(あとAbemaTVのアニメ一挙放送も見てました)ドラマづいて過ごしていました。

「この世界の片隅に」も年末にレンタルしていて見ないまま昨日やっと見るに至りました。

「この世界の片隅に」は、こうの史代氏の戦前戦中戦後の主に呉での庶民の生活を描いたコミックをアニメ映画化した作品で、資金集めに苦労しながらもクラウドファンディングを使ってやりくりしながら作り上げ、口コミから大ヒットとなり「のん」が声優を努めたことでも話題となった作品です。

私的には、このあたりの時代を描いた作品はどうにも苦手意識が働き、積極的に手にとることは少ないのです。なにが苦手なのかと問われると明確には言い表しにくいのですが、戦争・敗戦・原爆などなにかと負のイメージが付きまとい意図しようがしまいが左右の政治的な問題を避けられないということが影響しているからかもしれません。

なので、この「この世界の片隅に」も何本か一緒にレンタルした作品の中で一番最後に見ることになった感じです。じゃあなぜ手に取ったのか?と言うことになるのでしょうが、単にツタヤの本数割引を受けるために後一本借りる必要があり「君の名は」と同時期にヒットして話題になり高評価を得ているアニメ作品ということで、ほかに見たい作品が思いつかなかったので選んだというわけです。

主人公の「すず」は、絵を描くのが上手で空想癖があり、ボーッとしたところがあってすぐに迷子になったりするおっとりとしたこころ優しい少女です。鬼いちゃんと呼ぶ程の怖い兄としっかりした妹の三人兄弟で海苔の養殖に従事する両親と広島で幸せに暮らしています。そんなすずも19歳になり、ある時に見初めたという男性から縁談の話があり、呉に嫁ぐことになります。

すずの豊かな想像力(妄想力)を端的に表す象徴的なエピソードが・・・

子供の頃に広島の街に一人でお使いに出かけた時、気がつくと怪物の背負ったカゴの中でした。少し年上の少年が一緒で少年いわく怪物は人さらいでこのままではどこかに売られてしまうと言う。そこで橋の上で怪物を眠らせて二人で逃げ出すというファンタジーな、どこまでが事実なのか想像もつかないエピソードで、旦那さんとなる人との出会いが描かれています。(その少年が旦那さんで、その時に見初められたとは初めすずは気づいていない)

南の島で戦死した怖いお兄さんが怪物になってワニと結婚したというファンタジーを妹に語っている場面があり、ここに登場する怪物は兄で当時、旦那さんとなる少年と3人での何らかの出会いのエピソードがあったのかな?などと想像させられたりします。

そんな想像力豊でおっとりのん気なすずですが、芯はしっかりとしていて家族みんなで笑顔で暮らせるようにと毎日一所懸命に頑張っているのです。

そして、時代は戦争に向って行きます。

次第に戦火が厳しくなり、呉にも頻繁に空襲があり、すずは空襲で懐いてくれていた姪を目の前で亡くし、自分も右手を無くす大怪我を負ってしまいます。

空想して絵を描くことでキラキラとしていたすずの世界が、右手を失いうまく描けなくなりすずの目に見える世界も歪んでいきます。

絶望したすずは、姪を死なせ義姉に憎まれているとの負い目を感じ、呉の家族の元を去ることを決断するのですが、旅立つ日に義姉からかけられた「あなたの居場所はこの家だから」という言葉に心が救われ思いとどまることに。そして広島には原爆が落とされ、戦争が終わります。

原爆では、両親や多くの知り合いをなくし、妹は原爆病に苦しめられ、空襲で姪を亡くし自分は右手を失い絶望し、すずは何のための戦争だったのかと憤りを感じ叫び声をあげるのでした。

こう書くと、戦争の悲惨さを描いた作品のように感じられると思いますが、作品のテーマはおそらくそういうことではなく、ひたすら真っすぐで地に足の着いたすずの生き様に感動を覚えさせられる作品なのです。

空襲や原爆など、悲惨な状況の描写もありますが、憲兵に軍艦の絵を書いているのを見つかってスパイではないかと疑われるすずを家族みんなが笑い飛ばしたり、野草を摘んで食事の足しにしたり、苦しい中を助け合い懸命に生きる姿がいきいきと描かれます。

最後に、原爆で大きな被害にあった広島で養生する妹を訪れた帰りに、戦争孤児の少女を連れ帰り養子に迎え呉で家族笑いあって暮らすすずの姿があります。そして、すずは旦那さんに「この世界の片隅で、私を見つけてくれてありがとう」(だったかな?というような?)と口にします。

困難な時代を、家族みんなが笑いあって暮らすために、どこまでも明るくひたむきに生き抜くすずの姿にただただ感動を覚えさせられる作品でした。

原作は読んでいないので、遊郭のくだりなど大きくカットされている部分も少なくないようで、原作とは若干違った描かれ方なのかもしれませんが、のんが演じるすずは、俳優としてののんのイメージにも重なる感じもありキャスティング的にもいい作品であったといえるのではないでしょうか。興行が成功を収め目標額に届いたことから、やむなくカットしたエピソードを盛り込んだ完全版の制作にかかっていると言うことで、公開されるときには映画館で鑑賞してもいいかなと思ったりしています。