「のぞきめ」三津田信三 電子書籍

半年ほど前の「オーバーロード」12巻一気読み以降、ゲーム&ビデオ期が続いていて若干読書からは遠ざかっていました。とはいえ十何冊も一気読みはしないものの単発ではチョロチョロと読んでいます。

「のぞきめ」も少し前の割引で大人買いしたときに購入していたもので、外出時の時間つぶしに読み始めたのです。

三津田信三は刀城言耶シリーズではないホラー作品の「どこの家にも怖いものはいる」をこれの前に読んでいたので、「のぞきめ」も完全にホラーと思い込み読み進めていたのですが最後の最後に見事にやられてしまいました。刀城言耶シリーズのような複雑で重厚なホラーミステリーではありませんが、「のぞきめ」もかなりホラー寄りではあるもののミステリーとしても良くできた構成になっている作品です。

のぞきめ

ネタバレあり注意!

あらすじ

怪異譚蒐集家でホラー作家の主人公が巡り合った2冊の怪異譚を綴ったノートをめぐる物語。(この主人公は刀城言耶シリーズに登場する作家三津田信三と同一人物と思われる。)一つは、編集者時代に知り合った小学校教師が学生時代に貸別荘でアルバイトをしたときの怪異に見舞われた体験談を聞き取り、作者が大学ノートに記録して残していたもの。もう一つは、同業ライターの南雲が手に入れ(盗み)作者に売り渡そうとした民俗研究者四十澤想一の「のぞきめ」に関する記述ノート。この読むだけで祟られるらしいいわくつきノートは数年後、四十澤の死後遺言により作者の手に渡る。

この2つのノートに記された記録は、時代を隔ててはいるものの根を同じくする怪異の物語であるっことに気づいた作者が、前者を「覗き屋敷の怪」、後者を「終い屋敷の凶」と名付け一つの怪異譚として発表した作品となっている。

覗き屋敷の怪

利倉成留が大学四回生の夏休みに貸別荘でアルバイトをしたときの体験談を作者が聞き取りノートにまとめたもの。

辺鄙な山奥の別荘地で利倉成留は男性2人女性2人の大学生4人でアルバイトをすることになる。アルバイトを始めるにあたって管理人から、近くの滝に巡礼者が訪れることがあり滝への道程を聞かれたりするかもしれないが個人的に対応せず必ず管理人に任せる・地図に記載されている散策道以外の山道には絶対に立ち入らないことなど不可解な指示を受ける。

アルバイトも後半に差し掛かり客もほとんどいないある日、アルバイトの同僚である岩登和世が数日前に巡礼者の親子に出会い連れて行ってもらった気持ちのいい場所が近くにあるから行くと言い出し4人でその場所を訪れることなる。しかし行けども行けどもたどり着かず、なんとかたどり着いた目的地には不気味な大岩があり峠を超えたその先には村のような集落があった。引き寄せられるようにその集落に入った四人はそこが廃村であることを知る。しかし人気のない村であるにもかかわらず民家の中から覗き見られているような気配と何かに追い立てられるような恐怖に駆られ貸し別荘まで逃げ帰る。

恐怖体験に怯えた岩登和世と城戸裕太郎はその翌日アルバイトを辞め帰路につくが、最寄り駅の階段で城戸が転落死する。その知らせを聞いた利倉成留と阿井里彩子は岩登和世が心配になりアルバイトを辞め彼女宅を訪問する。

そこで二人は恐怖に取り憑かれ部屋に閉じこもったままノイローゼになった岩登和世の状況を知る。隙間にいるなにかに常に覗き見られている恐怖を感じ、隙間という隙間をガムテープなどで目張りしているらしい。阿井里彩子の知り合いの拝み屋にお祓いをしてもらったことで岩登和世はなんとか自分を取り戻せたように見えたが、翌日行方不明となり別荘地近くの大岩で鈴を握りしめ死んでいた。

終い屋敷の凶

民俗研究者四十澤想一が学生時代に体験した怪異体験を自身がノートにまとめたもの。

四十澤想一の大学の同級で唯一の親友・鞘落惣一は、自分の故郷について頑なに語ろうとはしない。彼が抱えている問題は出自の村のしいては鞘落家に関わる因習であった。ある時、惣一からその因習を自身で断ち切るための独自調査をしていること、そのあかつきには四十澤にも村に来て協力して欲しいと告げられる。しかし調査の途中で鞘落惣一は変死を遂げる。

鞘落惣一の家系は、侶磊村(ともらいむら)の南磊集落の〈終い屋敷〉と呼ばれる地主の名家でありながら「のぞきめ」と呼ばれる怪異に祟られて以来女の子が生まれることのない家系となり、村人からは疎まれ無視される存在となっていた。惣一も子供の頃からひどい目にあい大学進学を期に逃げるように故郷を去ったのであった。

鞘落家は代々、巡礼の地となる滝と大岩のある峠をたどりやってくる巡礼者を受け入れ宿泊や食事の世話をしていた。ある時、母娘の巡礼者が訪れ受け入れたが母が流行病に侵されていることがわかり、鞘落家当主は二人を納屋に閉じ込め放置した。衰弱した娘は金剛杖の鈴を必死に振っていたらしい。その上当主の嘉栄門が自分に伝染してしまうと癇癪を起こして二人を簀巻きにして崖下に生き埋めにしてしまったのである。それを知った息子たちが埋葬し直そうと崖下に行くと土の中から両目を見開いた娘の頭が土の中から半分出ていたという。

以来、鞘落家の人々はどこにいても奇妙な視線を感じるようになる。嘉栄門は視線の恐怖に慄き自分の寝床の周りに板壁を張らせ棺桶のような寝床で過ごすようになる。そして、自分の吐瀉物で窒息死してしまう。その後も視線の怪異は続き体調を崩す家人は後を絶たず、二人を閉じ込めた納屋からは鈴の音が聞こえるようなった。

このような鞘落家の異人殺しの伝説とその後の異人(巡礼者)との関わりから生じた因習によって、鞘落家は村人から疎まれ避けられ続け、今でも侶磊村ではそれが息づいているのである。

四十澤想一は、惣一の墓参りと「のぞきめ」に関する怪異譚への興味に駆られ侶磊村を訪れる。ちょうど惣一の祖母の葬列に遭遇し隠れて様子をうかがっていると、葬列の後ろについて回る少女がいることに気がつく。しかし葬列の人たちはその少女の存在に全く気づいていない様子であった。その少女と目が合った想一はその後少女のものと思われる視線に怯えることになる。

寺の住職の口利きで葬儀中の鞘落家に世話になり惣一の墓参りも無事済ますことができたのであるが、その住職から鞘落家で不審に思うものを見てもかかわらずに無視するよう忠告を受ける。

そしてその後、惣一の兄がたて続けに不審な死を遂げ、さらに悲劇が続く。

想一が目覚めると鞘落家全員が身体を不自然に捩じって死んいるのを目撃する。駆けつけた村人によると寺の住職も不審な死を遂げていた。身の危険を感じた想一は、逃げるように村を去ったのであった。

エピローグ

読者(わたし)は、ここまでの2つの怪異譚を「終い屋敷の凶」で始まり「覗き屋敷の怪」に続く「のぞきめ」と呼ばれる怪異の怪異譚として語られる純粋なホラー小説として読み進めているでしょう。そして純粋なホラー小説なら、エピローグでこの小説を記した作者のゾットするような後日談で締めくくり読了となるはずなのです。

ところが、このエピローグこそ《三津田信三》の真骨頂、ホラーミステリーを完成させる大どんでん返しとなっていたのです。

9割方まで二部構成の怪異譚の如く話を進め、ここで終われば良質なホラー小説としても成立するであろうクオリティを保ちながら、物語を語り終えたさきのエピローグだけでミステリーに仕上げる鮮やかさ。さすがとしか言えません。

感想

最後の数ページでホラー小説をホラーミステリー小説に変えてしまう。なかなかあざやかな構成で驚かされました。こんな感じの読後感のミステリーは読んだ記憶がありません。さすがホラーミステリーの雄《三津田信三》ですね。

エピローグでの作者の推理は、ノートに記録された四十澤想一の体験談と、民俗研究者四十澤想一の個人的に知り得た情報を基にしたものであり、裏付けとなるような証拠が残っているわけではありません。なのであくまでも作者の想像の域を超えるものではなく、全く的はずれな推理であると言うこともできるのです。

このあたりが《三津田信三》だからこそのホラーミステリーといえるところで、不可解な怪異の存在を匂わせながら解釈によっては怪異譚ではなく実は殺人であったのでは・・・と、提示する。この絶妙なバランスが《三津田信三》小説の真骨頂なのです。