魔眼の匣の殺人 今村 昌弘 (著)

「屍人荘の殺人」に続くシリーズ第二弾の作品「魔眼の匣の殺人」読了しました。

2月20日に発売されたばかりの最新刊。ハードカバーで購入すると1836円。電子書籍でも1599円。普通なら買いません。

が・・・そこが電子書籍の良いところ。クーポンやポイント付与など結構強力な販売促進策が取られて、ハマればかなりお得に目当ての本を読むことができたりするのですよ。

今回は、auスマートパスでブックパス540ポイントが当たってブックパスポイントが860ポイントたまり、4月末で失効するポイントもあったので860ポイントを消化すべくブックパスで電子書籍を購入することにしたのです。「屍人荘の殺人」もブックパスで購入していたので「魔眼の匣の殺人」を選択、700円少々で購入することができたのす。

魔眼の匣の殺人

前作のゾンビに続き、今作は超能力。ゾンビほどインパクトはないものの、ホラー設定を存分に活かしたミステリーは前作を上回る出来栄えです。それに、3作目も期待できそうなので楽しみです。

注;以下ネタバレあり

あらすじ

その日、“魔眼の匣”を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた直後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第二弾。

amaozn より

「ペンション紫湛荘」での事件で会長の明智を失ったミステリ愛好会は、葉村譲が会長となり剣崎比留子をむかえ活動を続けていた。大規模テロのバックに存在する「斑目機関」と称する謎の組織を追う二人は、ある雑誌の記事から斑目機関の研究施設があったとされる好見村を探し当て、その研究施設を探るべく山奥の寒村を訪れるのであった。

二人は村へ向かうバスで不思議な絵を書く少女十色とその後輩の茎沢の高校生のカップルと出会う。彼らも同じく好見村に向かうということで同行することに。二人は村で研究施設の調査をするはずであったが、好見村は人っ子一人いないという不可解な状況になっていた。村の調査中にツーリング中にガス欠になったという王寺という青年と、墓参りのため帰省してきた朱鷺野という女性と彼女に同行する師々田親子に出会う。

朱鷺野から村の最奥の真雁地区にサキミと言う老人が村人から「魔眼の匣」と呼ばれる建物で一人暮らしているという情報を得る。「魔眼の匣」には、サキミと世話役の神服、そして臼井と言う先客がいた。サキミは、予知能力を持つ超能力者で「斑目機関」の超能力研究のため50年ほど前にこの施設に招かれ、斑目機関が撤退したあとも住み続けて来たという。まさにこの「魔眼の匣」こそが葉村と比留子が探していた施設であったのだ。

サキミは、数十年先の事件や事故も予言していてその予言は外れることはなく予言された事象の回避もできないらしい。葉村たちが遭遇した大規模テロも予言されていたのであった。そのサキミが村人に「あと二日のうちに、この地で男女二人づつ四人死ぬ」との予言を伝えたことで、村人全員が好見から避難したため誰もいないという不可解な状況になっていたらしい。村人が避難して犠牲になるものがいなくなったため、予言の成就のため何も知らない葉村たち9人が奇しくも予言の日に好見村に引き寄せられてきたということなのか?

その話を聞き「魔眼の匣」から立ち去ろうとしていた矢先、村へと通じる橋が焼け落ち、サキミを含む11人が「魔眼の匣」に閉じ込められてしまう。携帯電話の電波は届かず、電話線が切断されたのか電話も不通、周りは原生林と深い谷川に囲まれ、村人は二日間は帰ってこない。2日のうちに4人が死ぬというサキミの予言の日が終わるまで真雁地区から出ることはかなわない状況になったのある。そして地震による土砂崩れに巻き込まれ一人が死に・・・

少々感想など

「屍人荘の殺人」「魔眼の匣の殺人」と続く作品には「斑目機関」と呼ばれるとんでも科学を研究する謎の組織の存在がベースにあります。そして「斑目機関」が研究の成果として超能力の存在を証明していたり、ゾンビを作り上げることを成功させていたりするという成果を上げている事実が存在する小説世界であることが前提となっているとい言うことを踏まえて作品を楽しむ必要があります。

「屍人荘の殺人」では、バイオテロによる人のゾンビ化が小説上の事実であり、「魔眼の匣の殺人」ではサキミの予言は100%的中し事象の回避は不可能であることを研究の成果として「斑目機関」が結論付けているということを事実事項として読むことが重要なのです。

「魔眼の匣の殺人」のサキミがこの日に4人死ぬと予言すれば事故であれ事件であれ結果として(3人でも5人でもなく)きっちり4人死ぬ、予言は回避できない。という決まり事であるという小説設定なのです。そのことを踏まえないで読むと、ご都合主義的であるとか強引であるとかお座なりな展開であるとかといった捉え方になってしまうかもしれませんし、動機についてもしかりでしょう。

しかし、この小説の世界観を理解した上(例えば予言の日に9人が魔眼の匣を都合よく訪れることなどは予言の成就に必要な偶然の必然と納得するなど)で読むと、しっかりと練り上げられた上質なミステリーであると評価できるはずです。散りばめられた伏線とその回収、クローズドサークル内で予言と呪いに囚われ追い詰められる登場人物たち。ミッシングサークルに人形が減っていく見立て殺人、さらに最後の最後に追い打ちのどんでん返し。と読み応えのある内容になっています。なんと言ってももその動機設定が斬新です。はっきり言って私にはふつうなら納得できない思いもつかない動機です。しかし、その動機を結構すんなりと納得させられる伏線と世界観を確立させている作者の構成力がすごいと感じさせられました。

この呪いとか巫女による予言とか舞台が山あいの寒村といったホラー設定は、三津田信三の刀城言耶シリーズに通じるものがあるのですが、読み応えは全く違います。この「魔眼の匣の殺人」には刀城言耶シリーズのようなオドロオドロしいホラー表現はまったくなく設定は似ていてもホラー・ミステリーではなく、純粋に(ホラー的設定を踏まえた上で)謎解きを楽しめる本格ミステリーといえる作品に仕上げられているのです。


by カエレバ