かがみの孤城 辻村深月:著

辻村深月氏は、直木賞受賞など日本を代表するミステリー作家なので、私としても多くの作品に触れていてもおかしくはないのです。ところが、なぜなのかよくわからないのですが、いまいち相性が良くないのか辻村作品に手が伸びないのです。唯一読んだ「スローハイツの神様」はアマゾンレビューでも高評価で代表作と言える作品のようですが、私の心にはいまいち刺さりませんでした。そして辻村作品2冊目が「かがみの孤城」となります。

かがみの孤城」は、2018年の本屋大賞受賞作品で機会があれば読んでみようと思ってはいたのですが、新刊でまだ文庫化されず電子書籍でも2000円近くすることから手が出せずにいたのですが、最近何故かauスマートパスのブックパスクーポンの抽選がよく当たり1000円引きクーポンをゲットできたので「かがみの孤城」を購入することにしたのです。

かがみの孤城

あらすじ

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

amazon より

中学入学でたまたま同じクラスになった女子生徒ののこころない仕打ちによって入学後1ヶ月で不登校になってしまったこころ。カーテンを締め切った部屋に閉じこもっていたある日、部屋の鏡が光りくぐり抜けられるようになる。くぐり抜けた先にはお城のような不思議な建物があり、自分のことをオオカミさまと名乗る仮面をかぶった少女がいた。こころは突然の出来事に驚き逃げ帰る。

翌日も鏡が光り、すこし落ち着いたこころは再び鏡の中を訪れてみることにする。そこには自分と同じくらいの少年少女6人とオオカミさまの姿があった。こころを含む7名はオオカミさまによってこの世界に招待されようだが全員事情はわかっていないようで戸惑うばかりであった。

自己紹介によって、女子がアキ(中3)・フウカ(中2)・ココロ(中1)、男子が、スバル(中3)・マサムネ(中2)・リオン(中1)・ウレシノ(中1)が招かれたメンバーで、どうも全員不登校である様子。

オオカミさまにより城に招かれたメンバーがすべきことの説明を受ける。それは、城に隠された「」をさがし隠された「願いの部屋」に入ること。鍵を見つけ願いの部屋にはいることができた一人にはご褒美として何でも一つ願いを叶えることができるらしい。そこには厳格なルールもあった。

ルール
1.お城に入れるのは日本時間で午前九時から午後五時まで
2.期間は3月30日まで。それ以降は入れなくなる。
3.誰かが鍵を見つけ願いを叶えればそれを持って終了
4.終了となれば、城での記憶はすべて忘れてしまう
5.3月30日までに誰も願いを叶えられない場合は城での記憶は残る
6.午後五時を過ぎてとどまっていたものはオオカミに食べられる
7.その場合、その日城にいた全員が連帯責任となり食べられる。
8.第三者が鏡の近くにいる時はゲートは開かない。

といった内容である。

少年少女7名が、それぞれの思いを持ちながら願いを叶えるため鍵を探しながら交流を深め、次第にこの城がそれぞれの唯一の居場所となっていくのであった。

感想など

舞台設定は、異世界ファンタジー的で、クローゼットが異世界につながるナルニア国物語や不思議の国のアリスなどの童話をモチーフにしたもので、こころが興味を持つグリムやアンデルセンの童話が伏線になっていたりします。

物語は、ファンタジー設定の青春群像劇で、テーマは絆といったところでしょうか。とはいえ、さすがミステリー作家といえる謎解きも満載されています。推理小説ではないので犯人を暴くようなものではありませんが、7人の関係性の謎・城やオオカミさまの存在の謎・登場人物それぞれが抱える問題・鍵や願いの部屋に隠された謎など読み進めていくうちに謎が深まっていきます。

家庭環境や人間関係、いじめやはぶり、などさまざまな問題を抱えクラスや家族といった社会からはみ出し一人ぼっちになってしまい絶望や諦めに至るしかなかった少年少女たち。それぞれが抱える複雑で解決し難い問題が明らかになるに連れいたたまれない気分にさせららます。そんな彼らが唯一の居場所となる城で知り合い戦友として一緒に戦えるかもという希望をもちならがもそれはかなわないことを知るのです。

そして近づく最終期限。唯一の居場所がなくなる日。を目前に事件が起こります。その子にとって居場所が奪われることは絶望でしかなく自殺的行為に及ぶのです。しかし、それは必然でありそれを乗り越えることでメンバーの絆が強固なものとなり、城という居場所を失った後、メンバー達の心のうち残る強い絆が原動力となりそれぞれに立ち直りの道を歩むことになります。

最後の謎解きは圧巻でなかなかに心動かされるものがあります。このエンディングで物語の初っ端で語られるこころの実現するはずのない希望が叶えられ、絆の輪がみごとに閉じられるのです。