Categories: 本のコト

錆びた滑車 若竹七海:著 あらすじ(ネタバレ)と感想

シリーズ2作目の長編「さよならの手口」を久しぶりに手を付け、葉村晶シリーズの面白さを再確認したところで「静かな炎天」「錆びた滑車」と一気読みと相成りました。「静かな炎天」も面白いのですが、ワタシ的にはやっぱり長編が好きなのだと改めて認識させられました。ということで今回は「錆びた滑車」の紹介です。

錆びた滑車

あらすじ

【仕事はできるが不運すぎる女探偵・葉村晶シリーズ最新長編!】

葉村晶は、吉祥寺のミステリ専門書店のアルバイト店員をしながら、本屋の二階を事務所にしている〈白熊探偵社〉の調査員として働いている。
付き合いのある〈東都総合リサーチ〉の桜井からの下請け仕事で、石和梅子という老女を尾行したところ、梅子と木造の古いアパート〈ブルーレイク・フラット〉の住人・青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれ、怪我を負ってしまう。
住み慣れた調布市のシェアハウスを建て替えのため引っ越さなくてはならなくなった葉村は、青沼ミツエの申し出で〈ブルーレイク・フラット〉に移り住むことになるが、そこでは思いもかけぬサバイバル生活が待っていた。ミツエの孫・ヒロトと父の光貴は八ヶ月前に交通事故に会い、光貴は死に、生き残ったヒロトも重傷を負った。事故の前後の記憶をなくしたヒロトは、なぜ自分がその場所に父といたのか調べてほしいと晶に頼む。
その数日後、〈ブルーレイク・フラット〉は火事になり、ミツエとヒロトは死んでしまう……。

amazon より

住み慣れたシェアーハウスが「さよならの手口」の物語で母屋が倒壊したため取り壊してマンションにすることが決定して2ヶ月以内に立ち退くことに・・・これからは〈白熊探偵社〉の事務所が住居兼仕事場になりそうな流れです。

いつものごとく「東都総合リサーチ」の桜井からの依頼を受け物語早々から大怪我で入院することに・・・石和梅子という老女の息子から彼女の交際相手を調査してほしいとの依頼で尾行をしていたところ彼女が訪問した「ブルーレイク・フラット」という古いアパートで住人の青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれ、階段から転落してきた石和梅子の下敷きになるというアクシデントが起こる。

石井梅子の交際相手調査の依頼は、不動産経営の不振から不動産営業の男に借り入れの相談をしていたのだと言うことが判明し調査は終了する。が・・・今度は桜井から青沼ミツエとの示談のためミツエの代理人として大事にならないよう話をまとめてほしいと依頼される。30万円とうい高額の成功報酬につられて依頼を受た晶は、青沼ミツエに接触する。

ミツエには、孫のヒロトと暮らしていた。ヒロトは8ヶ月前に老人の踏み間違え事故に巻き込まれ大怪我を負い歩くのが困難な状態で当時の記憶をなくしていた。その事故で父親の光貴は死亡し、近くに叔母がいるものの祖母と孫の二人だけの家族となっていた。

晶の接触に事情を察したミツエは、喧嘩の過程で自分が突き落とした事実があることからも治療費以上の金品を要求することはないということで決着する。住むところが決まっていない晶にミツエは「ブルーレイク・フラット」の一室を無料で提供すると言い出す。見返りは不自由なヒロトの相手と家事をちょっと手伝うだけ・・・?ヒロトとも親しくなった晶はその誘いに応じることにする。

ヒロトは、あまり仲の良くなかった父親となぜ事故現場に二人で行ったのか?なにか大事なことを忘れているような気がすると晶に調査を依頼する。その矢先、「ブルーレイク・フラット」は火事になりミツエとヒロトは死んでしまう。

事故の原因を不審に思った晶は、ヒロトからの最後の依頼を全うすべく独自に調査を始めるのであった。

感想など

いつものことながら満身創痍の葉村晶の活躍が楽しいです。今回は、短いながら心を通わせたミツエとヒロトの死という精神的なダメージも大きくまさに心身ともに満身創痍の状態になります。

同居人の瑠宇の忘れられない一夜をともにしただけの相手を探したいと相談を受け、その相手が自分の知る人物だと判明しどう対処すればいいのか思い悩まされ(最終的には事務所で鉢合わせ意気投合したような?)大家の巴からは嫁の父が入院したという噂を聞きつけ嫁に問いただしたところいつもの通り一人旅に出ているだけなので心配ないと言われ本当かどうかを確認したいと相談されたり(これが最終的には晶に災難が降りかかることになる。)と相変わらず本筋とは外れたお悩みを抱えながら四苦八苦するのです。

浮気相手と駆け落ちをしたという母、ヒッピーのような生活をしながらミツエのアパートに住み着き自分勝手な行動をする父、そんな両親を持つヒロトは父との折り合いが悪く祖母になついていた。そんないびつな家族が抱える秘密と隠された真実を知らず命を落とすことになったヒロト。知らずにいたほうが幸せだったのか真実を知るべきだったのか?救いは記憶を無くし経緯は忘れているものの事故現場に同行していた父の思いが少しはヒロトにも伝わっていたのではということでしょうか。子供を守るためならどんなことも厭わない、歯車が噛み合わず間違ってしまった家族の切ない物語と言えるでしょう。

今後は、探偵事務所が生活の拠点となるようですね。まさにハードボイルドの舞台が整った感じです。次回の長編が待ち遠しいです。

sumiyamo