山魔の如き嗤うもの 三津田 信三:著

刀城言耶シリーズ第四弾の長編ホラーミステリー。このシリーズは外れがありませんね。

山魔の如き嗤うもの

前作の「首無の如き祟るもの」で起きた事件の山村に向かう途中の列車内で山魔(やまんま)の伝承を聞きつけ急遽行き先を変更して向かった先で起こる事件。首無しの事件は刀城言耶が訪れることがなかった村でほぼ同時期に事件が起こっていたという設定で、刀城言耶が関わった事件は解決し関われなかった事件は迷宮入りしているという面白い構成になっています。

あらすじなど

忌み山で続発する無気味な謎の現象、正体不明の山魔、奇っ怪な一軒家からの人間消失。刀城言耶に送られてきた原稿には、山村の風習初戸(はど)の“成人参り”で、恐るべき禁忌の地に迷い込んだ人物の怪異と恐怖の体験が綴られていた。「本格ミステリ・ベスト10」二〇〇九年版第一位に輝く「刀城言耶」シリーズ第四長編。

amazonより

刀城言耶は、山魔伝承を調査に向かった村出身の郷木晴美(ごうきのぶよし)が記したとう手記を読むことになる。そこには晴美が山村の風習初戸(はど)の“成人参り”を執り行った際に体験した不可思議な現象が記されていた。山で道に迷った晴美が知らないうちに禁忌の地に迷い込みそこにあった一軒家に住む家族に助けられたものの、翌朝にはその一家全員が忽然と消え失せたとう言うものであった。

恐怖の体験から成人参りも完遂できず東京に逃げ帰った晴美は、その後精神的なダメージを受け仕事もできず受け引きこもりとなったことを心配した従兄弟の高志から編集担当を通じて相談を受けたものである。晴美の精神的ダメージを和らげるためにも手記にある一家消失の謎を解明してほしいという。

その依頼を引き受けた刀城言耶は、再び山魔伝承のある山村に向かうのであった。そこには、忌み山にまつわる村の有力家の確執に端を発する連続殺人事件が待ち受けていた。

感想など

童唄になぞらえた見立て殺人・密室からの一家消失・忌み山にまつわる金山伝説など相変わらず盛りだくさんな内容です。時代は戦後間もない昭和、山奥の閉鎖的な山村で有力家間には村の盟主の座を巡る確執があり信仰などに関わる民間伝承が息づいている。そういう陰鬱な舞台と限られた情報伝達手段しかない環境が事件の真相を歪め祟りや恐れといった感情が真実を覆い隠す。

現代では起こり得ないようなトリックや入れ替わりが、こういった舞台設定であれば可能でありある意味筋が通るものとなる。誰と誰が不義密通しているとかいとこ同士なのに似ているとか複雑な血の繋がりを匂わす表現などの伏線がはられていて混乱させれるのであるが、実はそれが事件の真相に近づくポイントであったりするのです。この辺りの舞台環境に即したトリックとホラー要素を絡めた伏線の張り方が絶妙で刀城言耶シリーズならではと言えます。

今回の暴かれる真相は、現代では成立しないような大胆なトリックではあるもののこの環境下でなら可能なのだろうなと納得させられるものです。刀城言耶の推理も二転三転し最終的にどんでん返しで完了とうい流れとホラーを匂わすエンディングも健在です。