ほたるの群れ1〜4 電子書籍

ひと月ほど前にhontoで購入した電子書籍
「ほたるの群れ」1〜4 向山貴彦

いやーおもしろい。読み始めるとやめられない一気読みです。4巻にむけてどんどん加速していく感じ。

「ほたるの群れ」(1〜4)

1巻 集(すだく)

出だしからいきなり殺人シーン。殺人というより処刑かな。なんだかで対立する組織があって、潜んで活動する組織のメンバーをそれぞれが探し見つければ処分する。その組織は一般社会に紛れアンダーグラウンドでなんらかの活動をしていて、「駒」とよばれる主な活動メンバーは10代の少年少女達。その活動はおもに暗殺。「駒」?「成駒」??な感じでお話が進みます。

冒頭は、夜中その「駒」である阿坂が対立する「成駒」を殺害するシーン。その現場の近くを少女が通りかかる。現場を目撃されたのではと疑う組織は、近くに落ちていた生徒手帳からその少女は、五倉山中学3年の小松喜多見ではないかと目星をつける。

その目撃者処分のために阿坂は五倉山中学3年6組に転校生として派遣される。

小松喜多見は、幼いころに両親をなくし親戚を転々としていまは祖父と二人で暮らしている。見た目はかなりの美少女で優等生。子供心にかわいらしいいい子を演じていれば大人たちに受け入れてもらいやすいことを感じ取り、今でも同級生たち周りの人間とは深く関わらないよう心の壁を築きなんとか優等生を演じている。

隣の席の高塚永児は、1年生のときに喜多見にラブレターを渡して以来ギクシャクした関係ながら喜多見に対してはずっと淡い恋心を抱き続けている。永児の家庭環境も複雑ですでに父は無く、最近姉が自殺を図り、母はそのため心を病んでしまっている。いつ急変してもおかしくない集中治療室で入院中の姉の世話をしながら、母の自殺に怯え日々を過ごしている。

なんとも重い救いのない設定でこの物語はスタートします。

自宅から殺害するために喜多見を拉致する阿坂と組織メンバー。その組織メンバーに反感を抱く阿坂は気まぐれからか喜多見の逃走の手助けをする。喜多見から無言の電話を受けた永児は異変に気づき喜多見の助けに走る。そして二人は五倉山中学に逃げ込むが・・・

逃げ回る二人を追う組織のメンバー。それに、組織のリーダー対阿坂・五倉山中学に潜入している阿坂と対立するもう一人の成駒・追い込まれ死の危険が迫る中、心のスイッチを切ることで殺人者として覚醒する永児。これらが入り乱れての生存をかけてのバトルが始まる。

1巻〜集〜では、この深夜の五倉山中学でのバトルの終結までが描かれます。
 

夜勤の教師が殺害され、バトルの末の死者や流血のあと、壊れた施設などの痕跡が綺麗さっぱりなくなり元どおり、翌日には日常通りの中学生活が送られているという異常な状況が描かれます。

1巻では、組織のことは全くふれられないので、自分で想像をふくらませるしかない状態で話が進んで行きます。自由に転校生を送り込んだり、いきなり教師がいなくなってもごまかせる。死体の処理や施設の修理を数時間で済ませる、多くの少年少女を幼少期から暗殺者として育てているなど、国家的規模の組織であることが匂わされます。(4巻でやっとそのさわりが語れれます。)

阿坂はともかく、喜多見や永児も翌日には普通に普段通りの中学生活を送っているという異常さ。喜多見に関しては、普段通りに何も語らず過ごせと脅され、バトルの最中はほとんど気を失っていたのでわからなくもないのですが、人を一人殺してしまっている永児は記憶があやふやで殺人の実感はまったく持っていないと言う異常さを感じざるを得ない状態。このあたりは「スイッチ」がキーワードで今後の物語の展開の伏線と言えるでしょう。

4巻 瞬(まじろぐ)までで、1学期が終わるまでが描かれます。

中学生が学校を舞台に殺し合い、たくさんの「駒」が死んでいきます。将棋の駒のように復活すること無く使い捨てるように死んでいきます。心のない殺し合いです。結構エグい表現のバトルシーンもあります。でも、残虐非道で救われない物語ではないのです。

最近読んだ本で、たくさん人が死んでいく物語・・・貴志祐介の「悪の教典」こちらも学校が舞台で、最後は一クラスの殆どが担任教師に惨殺されるという殺人鬼を描いた作品でエログロ満載のほとんど救いのない物語でしたね。こういったのも嫌いじゃないですが・・・

この物語は、「悪の教典」とは間逆な感じ。心無い殺人鬼がクローズアップされているわけではなく、組織の言いなりで逆らうという選択肢を持たない子供たちのおはなし。エログロな表現はまったくなくバトルシーンはクールな感じ。それでいて、登場人物の心情や心象風景は繊細に丁寧に優しい表現で描かれているのでそのように感じるのでしょう。

物語のあらすじだけを説明すると、ライトノベルでありがちな中学校を舞台にした異能学園バトル物で主人公は理不尽に狙われる愛する女性を守るため、無心に戦う中、心が次第に闇に支配され・・・みたいなことになってしまうのですが。

どちらかと言うと、上橋菜穂子宮部みゆきのファンタジー物を思い起こさせられる物語であるように思います。闇の中で暖かさはなくても希望を照らす光にはなる「蛍の光」。タイトルの「ほたる」が物語の根底にずっと流れていることを感じさせてくれる文章表現の豊かさが現れている作品ですね。

2巻以降は、永児と喜多見対阿坂の構図に阿坂と対立する成駒の千原がからみ、微妙な対立構造と協調、心の交流が交錯しあい物語が進んでいきます。ある事情からやむなく永児を殺そうとする阿坂。それをなんとか凌ぐ永児。千原の正体を知ってしまう喜多見は千原に毒をもられる。それに気づいた阿坂は永児を伴い喜多見の家に駆けつけるが、瀕死の喜多見の心臓は止まってしまう。

3巻では、阿坂の掌底によりなんとか息を吹き返す喜多見。成駒を処分できない阿坂を焚き付けるため、「会」と呼ばれる組織は、新な「駒」アヅミを3年6組に派遣することに。阿坂は、成駒の千原と決着をつけるためサダクラ製薬廃墟で死闘を演じ同士討ちとなる。学校では、1巻冒頭で殺された成駒の家族のかたきを討つべく駒が派遣されている五倉山中学に成駒の四堂が乗り込んでいく。喜多見と一緒にいたアヅミを見つけた四堂は、駒であるアヅミを殺すべく襲いかかる。そこに駆けつけた永児の反撃により負傷した四堂は退散するが、駒であることがバレたアヅミは二人を殺そうとする。

4巻、「塾」と呼ばれる「会」と対立する組織の長である静。千原からの連絡が絶たれたことを受けサダクラ製薬跡へ救出に向かうが、五倉山中学での事件の連絡を受けまずは学校に向かう。そこでアヅミを拘束し、一緒にいた喜多見も乗り込みサダクラ跡地へ。それを知った永児は喜多見のあとを追う。「会」は「塾」の出動を察知して「塾」を潰すべく部隊を派遣する。圧倒的な強さを誇る「白髪鬼」を要する「会」が「塾」を圧倒するが、壮絶な闘いの末、最終的には両陣営ともほぼ全滅し中立の「社」の出動によって収束をむかえる。永児・喜多見・阿坂・静・白髪鬼が生き残り、千原は行方不明。4巻でやっと「会」について少し語られ源平合戦の頃から脈々と続く闇の組織であり対立する「会」と「塾」はもとは同じ組織であることが判明する。しかし謎は深まるばかり・・・

4巻が出版されて4年近く新刊が出ていませんが、この続き読めるんですよね。