化物語 上・中・下 電子書籍

化物語は、阿良々木暦という高校生が、二年生になった春から初夏にかけて体験する怪異に満ちたお話です。語り部としての暦が自分の物語を紡いでいきお話が進みます。

「ひたぎクラブ」「まよいマイマイ」「するがモンキー」「なでこスネイク」「つばさキャット」の5篇による連作短編集の形ですが、私の個人的な読感としては、短編集というより化物語という長編を読んだって感じがします。

化物語

「ひたぎクラブ」

物静かな孤高の少女とふとした拍子で関わりを持ってしまい・・・
自分の思い、つらい思い・体験を心の外に切り離してバランスを取ろうとした戦場ヶ原ひたぎが二年間にわたって抱え続け、人との関わりを避け続けなければならないその理由は。。。

「まよいマイマイ」

母の日の日曜日、暦はとある公園で迷子の少女に出会い・・・
なぜ暦はその少女八九寺真宵と出会ったのか、なぜ羽川翼に見えて戦場ヶ原ひたぎには見えなかったのか。。。

「するがモンキー」

暦につきまとい始めた少女神原駿河。バスケットボールのスター選手であった彼女は、ケガで引退したらしく右手の先から肘のあたりまで包帯を巻いている。実は、その手はケガなどではなく・・・
神原駿河は、決して願ってはいけないものに何を願ったのか。。。

「なでこスネイク」

ある日、暦は頼まれ仕事をこなすため神原駿河を従えてとある神社を訪れたところ、参道の石階段で少女とすれ違い・・・
神社の境内にはぶつ切りにされた蛇の死骸がゴロゴロ。時を同じに中学生の間で呪いをかけるおまじないが流行っていて、暦の妹月火の小学校の同級生だった少女千石撫子がその呪いにかけられたという。。。

「つばさキャット」

暦の同級生羽川翼は、常に学年トップの成績を誇りなんでも知っている学級委員長を務める少女。ここでは語られないが、羽川翼は春休みに暦を救ってくれた恩人らしい。そんな彼女が抱える深い心の闇がある些細な行為をきっかけに発露してしまい・・・
なぜ彼女が、寸分の隙のない人格者の鏡のような委員長であり続けられるのか。。。

暇つぶし的趣味100%の世界観

各お話とも、暦と少女とが関わった怪異の話で男子は一切出てきません。(大人を除く)ツンデレ、ロリ、百合、妹、世話焼きのおねーさん、女子中高生(小学生まで)、幼なじみ、眼鏡っ娘、三つ編みおさげ・・・オタク系ラノベ設定爆発ですね。

これが暇つぶし的趣味100%で書いたというのですから、西尾先生のオタク妄想趣味の深さが半端ない感じです。設定的には、ライトノベルの王道を行っているのでしょうが、ストーリや表現描写など物語全般の雰囲気はライトノベルとは一線を画しています。レーベルもラノベレーベルじゃないですしね。

エンターテイメント小説とライトノベルの間に位置するような、今までのカテゴリに分類しきれない小説といえるでしょう。まさに西尾ワールドですね。

これぞ真骨頂!西尾維新の冴え渡る言葉遊び

一番の特徴と言えるのが、普通ならこんなの、小説では成立せず途中崩壊してしまうのではないかと思わせるような、ダジャレや言い回しの違いや字面の違いを交えた数十ページに及ぶ意味があるのかないのかわからないような延々とづづく会話。

その会話は、アニメやサブカルなど分かる人には解るエッセンスが散りばめられ、言葉使いの違いや、漢字使いなど、を二回三回とかぶせながらテンポよく進められます。

同じ発音の漢字違いのボケなんて、普通の会話でテンポよく成立するわけがなく、似た字面の言葉でボケるのも(例えば暦と歴)なども、無理があります。その無理を無理と感じさせず(感じているけど)ぶっこんでくる文章の構成力はさすです。これぞ「言葉遊びの達人」- 西尾維新 – の真骨頂と言えるしょう。

延々ダラダラと続いている掛け合い漫才のような会話の中に、薀蓄などエッセンスがチョコチョコと引っかかってきてアクセントになり、飽きることなく面白おかしく読み進められます。

ミステリーな要素もあるのです。

物語の構成も、少女たちの抱える問題は何なのか?という謎があり、それがどのように明らかになりそこにどう怪異が絡んでいるのか。そしてそれを暦がどう関わって解決に導くのか。というようにミステリー小説としての要素が色濃いものとなっています。探偵役は、しいて言うなら忍野メメさんでしょうか。

放浪癖設定の忍野メメを登場させ続けられないことから、問題解決のヒントとなる怪異譚を忍に語り聞かせるという伏線を張りその後の探偵的役割を「忍&暦」に引き継がせています。

けっこう根深い?少女たちの心の闇

少女たちの抱える心の問題と怪異の関わりが物語の肝なのですが、各物語に登場する主人公であるところの少女たちは、遠目で見ている限りはみんな可愛らしい普通のお嬢さんでいい子ばかりです。

でも、関わりを持ってしまうとそれぞれがそれぞれに深い心の闇を抱えていて、個性豊かでそれぞれに2つ3つと違った顔を持っているわけです。みんなどこかネジが緩んでいて、一つ間違えば他人を深く傷つけてしまうそんな危うい少女たちなのです。

そんな少女たちと真摯に真正面から向き合い、自分の犠牲も厭わず心の傷を癒やし救っていくヒーローが阿良々木暦です。(忍野メメに感化されてか、暦曰く、自分は何もしていない、みんな自分自身でかってに助かっているだけ。)

そんな暦だから当然助けた少女たちからは嫌われるはずもなく、みんなから好かれるハーレム物語になし崩し的になって行きそうでありながら、一応一途で恋愛には疎くロリ少女好きな暦の設定からか、そうはならず、絶妙な展開?で物語シリーズは進んでいきます。(とは言え、8歳幼女との入浴、中学生のブルマ一丁にスク水姿、猫耳ノーブラパジャマ、歯磨きプレイ、ほか多数・・・かなり際どく脱線し過ぎ感はんぱないです。きらいじゃないけどね。)

子供から大人になるそんな中途半端で不安定な人生の一時期に、誰もが持っていたであろう不安や悩み嫉妬や妬み正義や偽善恨みやそしみ、そんな心に渦巻く思い。そんな思いを一人で抱えきれなくなった少女と少年が、それらと向き合い癒やし折り合いをつけていく物語。必ずしもハッピーエンドとはいえないかもしれないけれど、バッドエンドではない物語。大人になってからいい思い出として語られるべき物語。です。

アニメを見てから小説を読んだのですが、この小説をアニメで表現するならこれしかないと認識させられました。小説を読みながらもアニメのシーンが思い浮かぶかのようで、これほど小説とアニメの世界観が融合している作品はないのではないでしょうか。