誉田哲也の最新作。「硝子の太陽」”Rouge”と”Noir”
出版社をまたいだ2冊同時発売のコラボ小説です。
”R”が光文社 ”N”が中央公論新社 こんな企画初めてです。今までに誰かやっているのかな?いずれにしても、人気シリーズを複数持っている誉田哲也だからできた企画と言えるでしょう。
”Rouge”サイドは、ストロベリーナイトの姫川玲子シリーズ。
”Noir”サイドは、ジウ&歌舞伎町セブンシーズ。
いずれも大好きなシリーズで、そのコラボ企画を読まないという選択はなく電子書籍でもすぐに発売になったので即購入。
姫川シリーズがより気になったので、”Rouge” ⇒ ”Noir” の順で読みました。どちらから読んでも問題ないでしょう。同時進行の別々の事件なので。
コラボ企画と言っても、一つの事案をそれぞれのサイドの視点で描くようなガッツリとしたコラボ内容ではありません。「姫川シリーズ」の新作と「歌舞伎町セブンシリーズ」の新作として別々に読めば何ら問題なく完結した物語になっています。続けて読めばコラボ部分がちょっとニヤッとさせられるようなスパイスとして楽しみが一つ増えるような感じでしょうか。
コラボ部分としては、物語の進行の中で、姫川と東や陣内・東と勝俣が絡むシーンをそれぞれの視点で語られること。殺害された上岡が持つ情報がキーポイントとなっていること。それぞれの事件に「沖縄基地問題」「日米安保」「ベトナム戦争」などの政治的なキーワードが絡んでくること。
「硝子の太陽」というタイトル。作品を読んでもピンときません。上記のキーワードがらみで硝子のように脆い日本の現状を示唆するものなのでしょうか。
”Rouge”は、誉田哲也ならではのストロベリーナイトの流れをくむ期待通りのガッツリとしたグロさが健在です。一家3名を殺害後、肛門から銃弾を打ち込み死体損壊するという「祖師谷一家殺害事件」を追う姫川玲子。ガンテツの妨害工作など困難を経て、上司の協力もあり28年前の「昭島一家殺害事件」にたどり着く。当時有力な容疑者として一人の米兵の名が挙がるも日米地位協定によって検挙を阻まれ未解決となっていた。犯行の手口から同一犯人の仕業と見込みを付け捜査をすすめるが・・・
猟奇事件発生から菊田・ガンテツ・井岡などのレギュラーメンバーの登場、姫川の理解者の死、犯人を追い詰めどんでん返し。と安定の出来栄えです。ただ、姫川玲子もストロベリーナイトの時のような勢いが感じられずなんとなく閉塞感漂う感じで、掛け合いやストーリー展開なども若干マンネリ感がなきにしもあらずですかね。
”Noir”は、歌舞伎町セブン中心のストーリー。ジウは新世界秩序(NWO)が闇で暗躍してるのか?程度にふれられているだけの感じ。沖縄基地問題に暗躍する闇ビジネスに絡み殺される歌舞伎町セブンメンバーの上岡。その犯人への復讐を誓い事件を追う歌舞伎町セブンのメンバーたち。そこに沖縄を拠点に活動する大物左翼活動家を取り調べることになった東や少女誘拐事件がからみあい・・・
こちらはこちらでまたも歌舞伎町セブンのメンバーが殺されるという展開。現代版必殺仕事人シリーズで犯人を始末して誘拐事件も見事解決のおきまりのストーリー。
王道の警察ものとダークヒーロものをガッツリと絡ませるにはあまりにも毛色が違うので今回の”R”と”N”程度の絡みが現実的な落とし所のように思います。ストーリーに無理を生じさせず、自然な接点をもたせつつ読者をニヤリとさせる、そんな誉田哲也の精一杯のファンへのサービス心が見える2冊です。