衛星を使い、私に 電子書籍

プラ・バロック」「エコイック・メモリ」に続くクロハシリーズ三作目の短編集「衛星を使い、私に」 結城充孝 著

クロハが刑事になる前の自動車警ら隊に所属していた時の「プラ・バロック」以前の物語。

今は亡き父のDVをはたらく家庭人としての姿と、正義を通した警察官としての姿。父としては受け入れられず拒絶しながら、警察官として関わった人たちに接して同じ職業人としての姿には敬意を感じつつあるクロハの心の葛藤。
唯一の信頼できる親族の姉と生まれたばかりの甥との暖かな交流。対して姉の夫との距離をおいた関係。
まだ、警察官としての自分の立ち位置を見つけられずにいるクロハの姿が描かれています。

プラ・バロック

エコイック・メモリ

衛星を使い、私に

「唯一のエス」「二つからなる銃弾」「雨が降る頃」「衛星を使い、私に」「Sは瞳をとじた」「計算による報酬」の6編からなる短編集です。

「唯一のエス」
警ら中の職務質問で、覚醒剤所持を見抜くも逃走を許してしまうと言う事案が続く。無謀運転による自動車での逃走で先回りしている警察のアミにかかるだろと思われたものの忽然と姿を消されてしまうとうい結果となる。覚せい剤の売人と思われる人物はどこに姿を消したのか?クロハの推理は・・・

「二つからなる銃弾」
射撃競技会の優勝争いをクロハのライバルであるキシモトの視点で語られる物語。射撃の名手であるクロハの心持ちが競技を通して描かれている。クロハがキシモトに最後の一射で敗れた原因は?

「雨が降る頃」
乗用車二台の接触による死亡事故が発生する。死亡したのは無謀運転を繰り返す大物県会議員の息子と運送会社勤務の青年。警察は運送会社の青年が運転する乗用車の無謀運転で前を走る県会議員の息子の車に突っ込んだ事による事故として処理しようとする。しかし、現場に駆けつけたクロハは殺人事件であると指摘する。

「衛星を使い、私に」
あるパーキングエリアで、切断された人差し指が見つかる。担当をしたクロハの上司が事件か事故かも不明で扱いに困っていたところクロハが調査を申し出る。調査の結果一人の人物が浮かび上がるも行方不明の状況。行方不明の人物は、自費出版で自分の過去の犯罪歴を明かす小説を出版していた。そこには大物県会議員の秘書を匂わす人物の覚醒剤に関わる記述があり・・・

「Sは瞳をとじた」
刑務所に収監されている人物から今は亡きクロハの父への面会依頼が来る。その人物は覚醒剤取引にかかる情報を持っているらしいがクロハの父としか話さないという。そこでクロハに父に代わり面談するよう依頼される。その関わりから覚醒剤取引の摘発に関わる捜査の内通者との連絡係を命じられることになる。内通者の情報から大掛かりな摘発に動く警察であったが、情報が漏れ摘発は空振りに終わってしまう・・・

「計算による報酬」
前に発生した自動車接触による死亡事故は、クロハの指摘により県会議員の息子が白バイに追われ無謀運転をしたことが原因で、発覚を恐れた白バイ警官がまだ息のある運送会社の青年を事故に見せかけ殺していたということが明るみとなった。しかし、自分の名誉を守るため事故が息子の無謀運転によるものではないとの主張で県会議員側が秘書を原告にした裁判を起こし争われることになる。一方でクロハにより刑務所収監者から覚醒剤取引の重要な情報を得て摘発に成功した警察は、議員秘書による覚醒剤取引の関わりについてもつめており逮捕が近い状況にあった。コンピューターの衝突軌道分析による証拠により議員秘書がわに有利な状況で裁判は進み、議員秘書逮捕となれば状況は変わる可能性もあるが未だ逮捕には至っていない。クロハは衝突軌道分析の結果に疑問を持ちながらも覆せないまま最終の審議が近づいていた・・・

「プラ・バロック」では、モノクロでクールなイメージで描かれるクロハですが、この連作短編集では連続殺人鬼など派手な事件ではない、普通に起こりそうな事件をとおしてそれに真摯に向きあう黒羽祐のひたむきな姿が描かれています。家族への愛や葛藤、事件に恐れず挑む姿、上司や同僚との交流、など彩りを持った物語になっています。 一つの物語が、後に続く物語の伏線となり、折り重なりながら物語が進んでいき、最終話で決着を観る。よく練られたストーリーに感じました。