「ビブリア古書堂の事件手帖」が完結しましたね。
個人的には、本屋大賞にノミネートされて以来の2012年から5年越しで楽しませてもらいました。確か3巻くらいまでは書店で文庫本を購入していましたが、今では電子書籍版をiPhoneで読んでいます。
この「ビブリア古書堂の事件手帖」がすごいのは、ふつうならとっつきにくい古い文学を読みやすい文章で薀蓄を交えて身近な物の様に感じさせてくれることです。古書の内容そのものだけではなく、その古書にまつわる人間模様が興味深く魅力的に描かれているため、古書そのものにも興味を向けられます。
実際に、ここで取り上げられた古書で絶版になっていた本が再販されたり、Amazonで売り切れになったりといった現象が起こっており「ビブリア古書堂の事件手帖」の人気ぶりが伺えます。
何と言っても、三上延さんの古書にまつわるストリーテーリングがほんとにおもしろい。
よくこんな物語の展開を考えつくなーと毎回脱帽させられていました。一つのお話を書くのにどれほど資料を集め勉強されたのかその苦労と努力のほどがハンパないであろうことが伺えます。
そして、そのストーリーを支える登場人物がまた個性豊かで魅力的なのです。
主人公の古書店店主の篠川栞子。
普段は人見知りでおっとりとした本ばかり読んでいるお姉さんながら、書籍に関する知識は人並み外れ「スイッチ」が入ると人格が一変したようにとうとうと豊富な知識を語り続ける。おっとりとした見た目とはうらはらに洞察力や観察眼に優れ人並み外れた推理力をもっている。その才能は母から受け継いだもので自分も母のようになるのではという恐怖を心の中に抱えている
もう一人の主人公古書店アルバイト店員の五浦大輔
子供の頃のあることがきっかけで活字を見ると気分が悪くなる「活字恐怖症」になり本とは無縁の人生を歩みながら、自身の祖母の秘密を栞子さんに解き明かしてもらったことをきっかけにビブリア古書堂でアルバイトをすることになる。大きな体のおっとりとした性格で栞子さんに好意を抱いている。(後に恋人同士になる)
栞子の母親の篠川智恵子
10年前に家を飛び出し失踪。栞子以上に古書に詳しく頭の切れる聡明な女性。古書の取引に関しては自分の利益が最優先で騙し脅しなど不道徳な犯罪行為ギリギリのことも平気で行える。そんな母を栞子は嫌い二人の間には確執がある。
他にも、一癖も二癖もある古書店主や古書収集家が多数登場し古書をめぐる駆け引きを繰り広げます
それに主人公たちの家族や家系にまつわる物語も古書にまつわるストーリーとして丁寧に掘り下げられていて主人公たちの心情などの背景も明らかにされ物語に深みを与えています。
ジャンル的には日常の謎系ミステリーなのでしょうが、内容は殺人こそおこらないものの栞子や大輔が大怪我を追うような傷害事件が起こったり、高額な取引に絡む駆け引きや騙し合いなど結構シビアで手に汗握るような展開があったりで日常とは言い難い特殊な世界の物語と言えます。
最終巻の「~栞子さんと果てない舞台~」では、未発見のシェークスピアのファースト・フォリオという数億円にもなる古書が題材で、実際それを栞子さんが手にするというかなりファンタジー色の強いお話しでさらに3冊の曰くあるファクシミリからあるのかないのかわからない本物を探すというかなり大風呂敷で無理くりな感じなのですが、多少強引ながらも面白おかしく綺麗にまとめ上げた力量は大したものだと感服します。栞子の母智恵子が10年前に家を飛び出した理由もあきらかになり、最終巻なんだからこれくらい盛り上がるお話で良かったと思います。
「ビブリア古書堂の事件手帖」は、変に引き伸ばさず7巻で完結させたのは正解ですね。ちょうどいい頃合いでだれないうちに綺麗に完結し本当に名作と言える作品になりました。栞子さんと大輔君の物語がもう読めないのは寂しい気がしますが、アナザーストーリーとして結婚した二人の姿が描かれる作品が出ることを期待しています。