「ドラゴンフライ」河合莞爾 電子書籍

久しぶりに読む本格ミステリー。河合莞爾作品は「デッドマン」以来2冊め、「ダンデライオン」も未読ですが購入済みです。

出だしから異世界ものかホラーかと思わせるようなカット割りで物語が始まり、一見怪奇な事件のように思わせる手法は「デッドマン」に続きこの作品でも健在です。

「ドラゴンフライ」のタイトル通り、今作品はとことん「とんぼ」絡みのストーリーが展開されます。

ドラゴンフライ

多摩川の河川敷で発見された猟奇死体。臓器を抜き取られ、黒焦げにされた遺体の下からはトンボのペンダントヘッドが発見された。警視庁捜査第一課の警部補・鏑木が率いる4人の特別捜査班は再結成し、手掛かりを元に群馬県の飛龍村へ向かう。そこはトンボの里として有数の沢がある村で、被害者はトンボ研究に熱心だった村出身の青年・遊介と判明する。だが彼の死後、幼馴染みの盲目の女性・泉美に遊介本人からの電話が掛かってきていた。鏑木たちは群馬県警と協力して不可解な謎の解明に乗り出すが…。村で起きた20年前の事件、ダム建設、3人の幼馴染み、幻の巨大トンボ―複雑に絡まる糸から鏑木たちが導き出す「真実」とは!?

amazon より

注:以下ネタバレあり

鏑木班シリーズ第二弾

今回も、お腹を切り裂き臓器を抜き取った上、黒焦げに焼かれた遺体が多摩川河川敷で発見されるというかなりグロテスクな猟奇事件が発端となります。遺体の下から発見されたとんぼのペンダントヘッドから被害者を特定した鏑木警部補は本部の捜査方針と異なり、すでに時効となった20年前の殺人事件が関係しているとの見解を示す。

なんとか管理官の理解を得た鏑木は、正木・姫野・澤田の協力で鏑木班として独自に事件を追うことになる。

20年前の殺人事件は、群馬県の山村・飛龍村で起きた夫婦が漬物石で殴り殺されるという事件で、村人全員のアリバイがあり流しの強盗殺人と断定し捜査されたが犯人逮捕に至らないまま時効となっていた。当時、飛龍村ではダム建設に絡み村を上げての反対運動が起こっていて、被害者夫婦が反対派の先頭に立って活動をしていた。

変死体となって発見された被害者・遊助が飛龍村の出身で、20年前の夫婦殺人の被害者の娘・泉美と同級生の健が仲良しの幼馴染であった。遊助は、小学生の頃奥の沢でムカシトンボと呼ばれる希少なとんぼを発見して以来とんぼの研究に没頭し、さらに希少種のとんぼの生息が確認できればダム計画を中止に追い込めると信じて研究を続けていたという。健は建築士となり今は飛龍ダムに関わる仕事を受注していた。

鏑木班は、20年前の殺人事件・多摩川河川敷変死体事件ともに飛龍村のダム建設に関わる事情が背景にあるとにらみ捜査にあたるのであった。

デッドマンの流れを汲む・・・

物語の出だしで、いきなり異世界へ入り込んだかのようなカットは、フランケンシュタインを思わせる「デッドマン」の流れをくんだ怪奇な雰囲気をまとわせる展開となていて途中で登場する遊助の幽霊とともに大きな謎を提供しています。このような怪奇っぽい雰囲気を醸し出す手法はデッドマンと同様で鏑木班シリーズの特徴と言えるのでしょう。(「ダンデライオン」もそんな感じなのでしょうか?)

とはいえ怪奇な現象には理由があり、現実にはありえないような設定とはいえ物語の中では合理的な解があり、推理小説としてよく練られたストーリーに仕上がっています。

感想

お互いのことを気遣うあまり、本当のことを告げられず、良かれと思ってとった行動が巡り巡って悲劇を巻き起こす。幼い頃の約束を果たそうとするあまり、真実から目を背け偽りを真実にしようとするそれぞれの思いが空回りしてしまう。誰か一人が真実を認めて指摘していればおそらく起こらなかったであろう悲しい事件。なんとも刹那い物語です。

ゴルフの帰り道、迷い込んだ道路から転落した人物が山中をさまよいたどり着いたのが、自分の住む街の景色そのままのゴーストタウン。異世界に迷い込んだかの情景に戸惑いながら自宅に行くとそこには旅行に行っているはずの妻の姿があり、内緒のゴルフを咎められ気を失う・・・さらに、魚の開きを思わせるような遺体に幽霊。とけっこう風呂敷広げたなぁ〜と思わせるストーリー。

そんな突拍子もない出だしの展開は物語の終盤まで放置されるものの、幽霊とともに重要なファクターとなっていたりします。さまざまな要因が複雑に絡み合い大きな謎が構成されていて、鏑木警部補の刑事の勘と澤田の心理分析によるブレイクスルーで次第に紐解かれる真実。幼馴染の3人はそれぞれ何を守ろうとしていたのか?

なかなか良く考えられた構成で、ダム建設に関わる汚職などを絡めたストーリーは読み応えがあり、徹底して「とんぼ」というキーワードに絡めたストーリー展開は(若干ひつこく感じるものの)うまくまとめ上げられています。個人的には「デッドマン」より良くできた作品であると思います。