「首無の如き祟るもの」三津田 信三:著 あらすじ(ネタバレ)と感想

「厭魅の如き憑くもの」「凶鳥の如き忌むもの」に続く刀城言耶シリーズ第三弾の作品です。三津田作品は、ホラーミステリーとして唯一無二の作風で数冊読んでファンになり、刀城言耶シリーズも割引を使えるときにまとめ買いをしていてまだ全作品は揃っていないのですが、時間の空いたときに順番に読み進めようと思っているのです。

首無の如き祟るもの

あらすじなど

奥多摩の山村、媛首(ひめかみ)村。淡首(あおくび)様や首無(くびなし)の化物など、古くから怪異の伝承が色濃き地である。3つに分かれた旧家、秘守(ひがみ)一族、その一守(いちがみ)家の双児の十三夜参りの日から惨劇は始まった。戦中戦後に跨る首無し殺人の謎。驚愕のどんでん返し。本格ミステリとホラーの魅力が鮮やかに迫る「刀城言耶(とうじょうげんや)」シリーズ傑作長編。

Amazonより

秘守一族の跡目争いに端を発する連続首なし殺人事件の顛末を綴った小説を当時村の駐在を務めていた高屋敷の妻で小説家の妙子が、高屋敷の死後彼の残した捜査メモを元に連載を始める。事件に大きく関わっていた高屋敷と使用人の斧高の二人の目線で綴ったものである。この事件は解決せず迷宮入りをしていたのだ。

秘守一族の長を継ぐであろう長寿郎の結婚の相手を決める見合いの儀式の場で見合い相手の一人が首を切断された状態で発見される、さらに近くの祠の中で長寿郎と思われる首無し死体がみつかる。関係者全員アリバイがあり婚舎に通じる山道には見張りの警官がおり山には関係者以外出入りできない状況であった。更に翌朝もうひとりの首無し遺体が発見されるとう不可解な事件が起こる。

その十年前には、長寿郎の双子の妹が、十三夜参りの儀式の途中、禊をする井戸に転落して死亡する事件が起こっていた。そのご遺体を日をおかず火葬にし家族だけで密かに葬儀を行っていたことから、遺体には首がなかったという噂が広まっていた。

そんなことから村では、一連の事件を淡首様や首無の祟として恐れられていたのである。

感想など

まず、刀城言耶シリーズの前2作と大きく違うところは、探偵役である刀城言耶が直接この事件に関わっていない点です。事件の顛末は小説家である高屋敷の妻である妙子が事件から数年経ってから、自身の夫である高屋敷が大きく関わりながら解決できなかった不可解な殺人事件を連載小説で再検証するという形式になっています。

では、刀城言耶はどういう形で関わるのかというと、その連載小説を読み興味を惹かれ妙子の元を訪れ、その小説の内容から犯人を突き止めるといういわゆる安楽椅子探偵として登場するのです。小説内でも登場はするのですが、事件の起こった村を訪れる予定であったものの電車に同乗した高屋敷が語った怪異譚に興味を持ち途中下車してしまい事件に関わることはなかったのです。

刀城言耶は、小説の内容を元に理路整然と仮説を立て犯人を指摘します。その内容は当然ホラー的要素は皆無で、小説をしっかり読み込んでいればたどり着ける解となっています。この辺りの推理小説としての作りは見事で上質な本格推理小説として楽しめる作品と言えます。

最後は、お決まりのようなどんでん返し淡首様や首無の祟を匂わせる終わり方でホラー的要素も楽しめる物となっているのです。三津田作品はこの辺りのバランスが絶妙なのです。少しの不満を述べさせていただけるのなら、刀城言耶が事件に直接関わっていないことに物足りなさを感じていることでしょうか。