またまた当たった「1000円以上50%OFF」クーポンを使ってauブックパスで購入しました。ブックパスクーポンなぜなのかよく当たります。ということで久しぶりの誉田哲也作品の新刊です。
背中の蜘蛛
あらすじ
東京・池袋で男の刺殺体が発見された。捜査にあたる警視庁池袋署刑事課長の本宮はある日、捜査一課長から「あること」に端を発した捜査を頼まれる。それから約半年後―。東京・新木場で爆殺傷事件が発生。再び「あること」により容疑者が浮かぶが、捜査に携わる警視庁組織犯罪対策部の植木は、その唐突な容疑者の浮上に違和感を抱く。そしてもう一人、植木と同じように腑に落ちない思いを抱える警察官がいた。捜査一課の管理官になった本宮だった…。「あること」とは何なのか?池袋と新木場。二つの事件の真相を解き明かすとともに、今、この時代の警察捜査を濃密に描いた驚愕の警察小説。
amazonより
第一部 裏切りの日
池袋署刑事課長の本宮は、刺殺事件の担当となり捜査に当たる。昔ながらの足を使う聞き込みを捜査の基本とする本宮は、監視カメラの分析が主流となった捜査手法に偏りを感じ憂慮していた。捜査は遅々として進まず本部の方針に疑問を感じながらも従わざるを得ない本宮であった。そんな時、捜査一課長から内密に被疑者の妻の過去を調べるよう命じられる。本部の捜査方針から外れる捜査に疑問を感じながらも内密捜査の依頼を受ける。調査の結果が犯人特定に繋がり事件は解決に向かうのであったが、本宮は捜査一課長がなぜそのような指示を自分にしたのか疑問に感じ、その後の捜査一課長の態度から自分はなにか大きな間違いを犯してしまったのではないかと思うに至るのであった。
第二部 顔のない目
警視庁の組織犯罪対策部に所属する植木は、違法薬物の売人をマークし取引現場を押さえるべく捜査を進めていた。慎重な売人が動き出しライブ会場のロッカーで受け渡しが行われると見てロッカーを開けようとしている売人に近づいたところで爆発が起こり、売人は死に植木は重症を負う。事件は、植木とコンビを組んでいた佐古にタレコミ電話があったことから早期の容疑者逮捕に至っていた。植木は、佐古にかかってきたというタレコミを不審に感じ情報の出どころの調査を始める。
第三部 背中の蜘蛛
捜査一課の管理官として赴任した本宮も爆破事件の担当となり、被害者となった植木とタレコミ電話を受けた佐古に興味を持つ。本宮は、植木に声をかけ話を聞くことにする。自分の時となにかの共通点を感じとり、植木と佐古を従え本宮は独自に調査を開始するのであった・・・
一部と二部は、プロローグで三部が本編という構成になっています。一部で本宮に与えられた極秘調査、二部で佐古に届いたタレコミ、いずれも事件解決に決定的な情報であるにも関わらず、出どころ不明という共通点について違和感を覚えた本宮達が調査をすすめるパートです。そこで明らかになる事実とは・・・
感想など ネタバレあり
以下、ネタバレあり注意!
少し読み進めれば、想像できる感じの設定です。なのでその点が重要なのではなく、それに関わる人達の葛藤や正義感・後ろめたさなど登場人物の心の動きを描くことがこの物語の主眼になっているのです。
普通の捜査では見つけることすら困難な犯罪に対して、どのように対処するのが正解なのか?現時点では違法とされる手法で明らかにされた犯罪行為を正当に裁くにはどうすればいいのか?そのために取られた手法を描いたのが一部の「裏切りの日」と二部の「顔のない目」です。いずれも出所不明の情報から犯人逮捕に至るのですが、長年地道な捜査に携わってきた刑事達にとっては違和感を覚えるものだったのです。
その情報の出どころが、運三と呼ばれる部署が副総監直属の極秘プロジェクトでCIAやFBIが運用しているという情報収集システムを使った捜査だったのです。12台のスーパーコンピューターでAIを使いネットの閲覧履歴やメールのやりとりを収集・分析して犯罪の兆しを見つけるといったものです。当然違法な捜査なのでここで得た情報で犯人逮捕に至ることはできないため、捜査現場の担当者にタレコミという形で情報提供されていたのです。
この手のストーリーは、CIAやFBIを描いたドラマだと普通だし、日本のドラマでも、最近だと「絶対零度」の未犯システムや映画「AI崩壊」の百目システムなんかが似た内容になっていたりします。なので特に目新しい設定ではなくネタバレしたから面白くないような物語でもありません。
このシステムに関わる捜査員は、違法な情報収集であることは重々承知の上で仕事にあたっているのです。そこには、犯罪に関わらない個人の情報も含まれ、覗き見をしているような後ろめたさや、犯罪を防ぐためには必要な行為であると言った正当性、与えられた仕事を粛々とこなす責任感。などそれぞれに葛藤を抱えているのです。部下の交際相手の情報を調べ警察官が付き合うのにふさわしくないと交際を妨害したりと職権乱用をはたらく者、ダークウェブの沼にハマり精神に異常をきたす者、盗聴の事実を知るあまり子供に携帯電話を持たせない者、などシステムを取り巻く人達の物語が繰り広げられます。
調査によってその事実を知ることになる本宮もその一人です。はじめは違法なシステムを運用するような捜査は認められないとの考えであったのが、調査の過程でその担当者たちとふれあいその葛藤や責任感を目の当たりにするに連れ、運用する担当者の心構えや理念が重要でありシステムそのものを悪と決めつけるのは良くないと考えるようになっていくのです。
時代の流れやテクノロジーの発展によってその価値観は変化していきます。例えば原子力技術は悪なのか?日本で原発を廃止しても他の国ではどんどん作られその技術は必要とされている。インターネットでの情報の拡散が当たり前の時代になり、ハッキングによる秘密情報の流出が普通に起こる、アメリカでは通信全般の情報収集が普通に行われていたりします。
現在の日本では通信情報を無断で集めることは違法であるけれど、何かをきっかけに警察等の捜査に合法的に取り入れれれるようになる可能性は否定できないし、近い未来にはそうなっているような気もします。この物語はその過渡期、まだ認められていないが近いうちに認められる、それを前提に運用されるシステムに極秘裏に関わる人達の警察官としての葛藤や矜持などの人間模様を描き出しているのです。