ホラーは映像で、ミステリーは小説で楽しむ
ホラーはけっこう好きなのですが、ホラーと言われるジャンルの小説は、あまり読みません。何故かと言うと、想像力が乏しいせいか文章で読んでもあまり怖いとは感じないのです。
ホラーは、映像で楽しむのが一番です。
それに対して、ミステリーはあまり映像化されたものは見たいと思わないのです。
ミステリーは、小説で文章で巧みに表現されてこそ楽しめるもので、映像では陳腐化してしまうものが少なくない。叙述トリックなんかは、文章だから成立するのであってそのまま映像化しても成立しないので、映画ではなんか変なことになってしまう。
で、今回紹介する
「厭魅の如き憑くもの」三津田信三
お決まり要素をしっかり踏まえた、上質のホラーミステリーです。
- 通信手段が発達していない昭和の時代。
- 古い因習を守り続け外部の物に対しては排他的で孤立した山奥の村。
- 村を2分して対立する有力な家筋。
- 独自の神様を祀り畏れ敬う村の信仰。
- 辻や沢など山間の入り組んだ地形。
物語の設定としては、まさに横溝正史の世界観。
怪奇小説作家である「刀城言耶(とうじょうげんや)」が探偵役を務めるシリーズ第1弾の長編とのことです。
化物話や民間伝承を収集する怪奇小説作家「刀城言耶(とうじょうげんや)」は、神々櫛村(かがぐし)に伝わる伝承を調査するために村を訪れる。神々櫛村は、カカシ様と呼ばれる神様を畏れ敬い信仰している。病気や悩みなどの村の抱える問題は、巫女による憑物落としで解決し、厭魅(まじもの)と呼ばれる正体不明の怪異に怯え、子供の神隠しが度々起こっている。切り立った壁に囲まれた辻が村中を迷路のように結んでいる。
刀城言耶が訪れてそうそう、カカシ様の姿に似せた殺人事件が起こりそれから立て続けに5人が殺される連続殺人事件に発展する。
ホラー要素はあっさりめ?凝った構成に一同会して探偵謎解きの本格ミステリー
民間伝承の解釈や認識される現象にはホラー的要素は散りばめられて入るものの、恐怖を煽られたりおどろおどろしさを感じさせられたりは、それほど強いものではなくあっさりしている方でしょう。刀城言耶自身がミステリアスな人物ではなくどちらかと言うととっつきやすいようなキャラクター設定なのも影響しているように思います。
主要人物の日記と調査報告で構成するという、特殊な手法を用いていて、そこトリックのヒントが散りばめられているという凝った作りになっています。しっかり読み解くためには、今読んでいるのは誰の視点で何について語られているのかを注意深く追う必要があり、叙述トリックといえる部分です。
最後には、刀城言耶を囲み登場人物が勢揃いするという大団円が用意され、本格ミステリーの体裁が整えられています。刀城言耶が披露する推理は、読者が考えていそうな推理を述べて否定され、そこから推理を練り直す。何度かの修正の後、それならこれしかないという推理で決着するかと思いきや、その推理を踏まえてのある人物の秘密の告白があり、それにより真実にたどり着くという、こちらも凝った構成を取っています。
真犯人を推理する上で、散りばめられた伏線の解釈を間違った犯人の指摘によって明らかにして、最終的に伏線をちゃんと回収すれば、真犯人はこの人しかないんだよ。と証明する。なかなか見事なまとめ方です。さらに一部不可解な部分を残しその解釈によっては、厭魅がかかわっているのでは・・・とほのめかすホラー要素に含みを持たせている。
おすすめの上質なミステリーですよ。
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