「天久鷹央の推理カルテ」シリーズは、シリーズ累計40万部を売り上げる人気シリーズだったのですね。
電子書籍ストアの「honto」で本を物色していて目に止まりポッチとしたのが「天久鷹央の事件カルテ〜スフィアの死天使〜」です。後から調べてわかったのですが、天久鷹央シリーズ4作目で推理カルテシリーズのナンバリング外の事件カルテ1作目の作品だったようです。
ただ、シリーズ4作目とは知らず、物語の内容が天久鷹央と小鳥遊優の出会い、小鳥遊優が内科に転向し勉強のため天久鷹央が副院長を務める「天医会総合病院」に勤務することになった頃のエピソードだったので、何の違和感もなくシリーズ作品の1作目と思い込んで読んでいたのです。
で、キャラクター設定やテンポよく読み進められる内容が自分の好みにあっていたようで面白く読めたので続きを読もうとポチッとしたのがⅡのナンバリングが打たれた「天久鷹央の推理カルテⅡ〜ファントムの病棟〜」でした。
これを読んでいたときに違和感を覚えるのです、なんか話がとんでいる・・・と。
連作の短編なので、全く話が通じないわけではないのですが、途中でふれられる統括診断部廃止のエピソードなんて読んでないぞと。そこで初めて「事件カルテ」と「推理カルテ」があることに気づいた次第なのです。
2冊読んで気に入ったので、残り4冊を順番はちょっとおかしくなりましたが一気読みで読了しました。
読み終わって(Ⅴが電子書籍化されてないので未読ですが。)ふと思うのです。
4作目で明らかにされる天久鷹央の秘密(?)。
私としては1冊目で読んだので天久鷹央がどういう人物なのかがわかった上で全作品を読んでいたのですが、発売順に読んでいればそのあたりのことは明かされないまま、「推理カルテⅢ」までは読み進めるわけで、その場合天久鷹央という人物は読者にどのように映るのかと・・・
以下、そのあたりのネダバレになるので未読の方はご注意ください。
シリーズ一気読みなことからも、お気に入り作品確定です。
何と言ってもキャラクター設定が秀逸ですね。
主人公は、見た目は華奢でかわいい女子高生ながら27歳にして総合病院の副院長かつ統括診断部部長の天久鷹央。そしてその相棒が、大学病院から統括診断部に出向勤務の天久鷹央の唯一の部下でそこそこ優秀な外科医ながらいまは内科医に転科し天久鷹央のもとで勉強中の小鳥遊優。
主人公の天久鷹央が解けない謎なんてないんじゃないくらいの反則的頭脳を持った名探偵であるという設定。どういうことかというと、一度読んだ本は一字一句漏らさず記憶でき、観たものは映像記憶として蓄積される。一度聴いた音楽はピアノですぐに演奏できる。などなど、一度得た情報を頭のなかのデータベースに蓄積されいつでもどこでも検索可能で適切なデータを引き出すことができる。その能力を活かして膨大な医療知識を蓄え患者の症状と照らし合わせて適切な病気の診断を下す。超一流の診断医である。
その反面それ以外のことは殆どが人並み以下。医者としては超不器用で注射などの治療ができない。対人能力は皆無に等しく、人の気持ちが察せられない・空気が読めない・比喩の表現が通じない・敬語が使えない・ちょっとしたことですぐにパニックになる・・・など、その行いを他人は理解できずまともな対人関係をなかなか築けない。極度の偏食でカレーとスウィーツしか食べない。1週間お風呂に入らなくても平気。引きこもり。なので患者は怒らせるし部下や同僚の医師からは疎まれる存在。
かなり極端な設定であるけれど、その設定を納得させる根拠を「アスペルガー症候群」というキーワードでおさめています。
「アスペルガー症候群」とは知能の高いサヴァン症候群といわれる症例のようです。要は、このキーワードによって天才的な頭脳と高い知識を持ちながら人間関係をまともに築くことができない変人の名探偵という設定を可能にしているのです。
対人関係を築けず高い能力を無駄にして引きこもっていた天久鷹央を表舞台で活躍させるための要件が小鳥遊優です。小鳥遊優が部下として天久鷹央の理解者となり、その能力を活かす一助となることによってこの物語が動き出すことになるのです。
天久鷹央の自分の興味や欲望にストレートな行動と率直な物言いが心地よく、それに振り回される小鳥遊優が滑稽であり、天久鷹央の理解者であろうとする真摯な姿勢に好感が持てます。
謎解きに関しては、正確な情報さえ揃えば解けない謎はないような天才的な頭脳を持った天久鷹央ではあるものの、正確な情報が揃わなければ謎の解明に至ることはできないわけで、その情報を得るための過程の冒険譚という側面もありそのあたりの伏線や機微の表現がうまくてんぽよく楽しませてもらえるおすすめの作品です。