「medium 霊媒探偵城塚翡翠 」相沢 沙呼:著 あらすじ(ネタバレ)と感想

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と、かなりの話題作です。最新刊で電子書籍でも1540円で普通なら手を出さないのですが、auスマートパスの抽選でブックパスポイント1000ポイントが当選したので速攻購入したのです。

medium 霊媒探偵城塚翡翠

あらすじ

推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒であり、死者の言葉を伝えることができる。しかし、そこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かわなくてはならない。一方、巷では姿なき連続殺人鬼が人々を脅かしていた。一切の証拠を残さない殺人鬼を追い詰めることができるとすれば、それは翡翠の力のみ。だが、殺人鬼の魔手は密かに彼女へと迫っていた―。

amazonより

霊能力者の城塚翡翠(じょうづかひすい)と推理作家の香月史郎(こうげつしろう)がコンビを組んで殺人事件を解決する。

城塚翡翠は、自称・霊媒で霊能力で霊視を行い自宅のマンションで悩みを抱える人達のため料金を取らずに相談に乗っている。香月史郎の大学の後輩・倉持結花が自宅マンションでの奇妙な体験に悩み城塚翡翠に相談に乗ってもらう約束をしたということで付き添うことになる。霊視による無料相談など何らかの詐欺か宗教の勧誘ではと疑う二人であったが、翡翠の能力を目の当たりにしてその懸念はないとわかり、調査のため結花の部屋を見たいという翡翠の要望に応じ3人で結花の部屋を訪問する約束をする。

当日、約束の時間になっても現れない結花を心配しながら自宅を訪れた二人は、冷たくなっている結花を発見する。警察が来るまでに部屋の状況を確認する香月に、何かを感じた翡翠から「犯人は女である」と指摘される。

捜査は難航し、近隣で発生している空き巣による強盗事件の線で捜査が進んでいると聞き、翡翠の能力を信じるに至った香月は、証拠能力のない霊視をもとに独自の推理を働かせ現場に残る証拠を見つけだし犯人を明らかにするのであった。

こうして推理作家と霊媒のコンビ探偵が誕生し、その後2件の殺人事件を見事解決に導くのである。同時に10人に及ぶ女性連続殺人事件が続いていて狡猾な犯人による犯行は、警察の捜査の目を欺き続け全く捜査が進展しない状況にあった。その殺人鬼の魔の手が翡翠のすぐそこまで迫っていた。

感想など

この作品には、見事にやられてしまいました。最終章でのぐるっとひっくり返る展開の見事さには本当に驚かされました。こんなひっくり返された感を味わったミステリーは過去にないのではないでしょうか。

出だしの設定は、霊能力者と推理作家のコンビ探偵ものの体で、ある意味ライトノベルにありそうなシチュエーションです。でも簡単に霊視で解決というような安易な内容でなく、翡翠の霊視はあくまでも香月の推理を助けるヒントで、そのヒントを受けて現場の状況などから推理を展開して合理的証拠から犯人を指摘する本格推理小説となっています。

城塚翡翠は、20代前半の幼さの残る北欧の血を引く碧眼の美女で、幼い頃から見せる霊能力のため周りから疎まれ友人もいないまま孤独に過ごしてきた暗い過去をもちながら、自分の能力を生かして少しでも人助けがしたいとう健気な姿が魅力的なキャラクターです。能力の理解者となった香月をなにかと頼りながらコンビで事件を解決していくというストーリーも読みやすく、証拠能力のない霊視をヒントに推理を展開していく流れも本格推理小説を逸脱することはなくなかなかよくできた物語です。

このコンビでの物語が続いていてもそこそこ楽しめるスリーズになりそうな予感を感じさせる流れで、3つの殺人事件を解決していくのです。香月と警察との関係は、ありがちではある難事件のときに警察から協力要請を受ける推理作家という設定になっています。

ところが、最終章で連続殺人鬼と対峙する場面で物語は大きくひっくり返るのです。このいきなりちゃぶ台を返すような見事なひっくり返し方には絶句しかありませんでした。この小説は最終章で本格推理物から古畑任三郎的倒叙物へと様変わりします。最終章は全編謎解きで霊媒探偵をなのる城塚翡翠の本領が発揮されるのです。

少し苦言を言うとすれば、最終章が同じような会話が続き内容が説明的な流れで終始しているところでしょう。解決編なので過去の事件を遡り解説していくことになるので致し方のない部分ではあると思うのですが・・・とはいえ、全てをひっくり返された驚きと少しの気持ち悪さで補われてはいるのではないでしょうか。

ということで、初っ端に書いた三冠は伊達ではなく、ミステリー好きなら必ず読むべき作品です。